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導入事例

熟練者の知見に頼らない新たな業務プロセスへ。CTC×ストックマークで実現する、社会インフラDX

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

事業内容|クラウド・AI・データ分析・サイバーセキュリティをはじめとするシステム販売・構築サービス等

【取材にご協力いただいた方】
広域・社会インフラ事業グループ東日本統括本部 東日本SI部
藤原 健司様
小芦 茂治 様
渋谷 啓介 様

同本部 東日本営業第1部
堀下 梨沙 様

目次

社会インフラの安定と未来を、技術と設計力で支える
数万ページの書類に、煩雑な申請作業。これまで解決困難だった電力業界の課題

専門用語や図表の壁を突破。SATが拓く高精度RAGの世界
原子力から他業界へ広がる、社会インフラDXの可能性


「社会インフラ分野特有の複雑で難解な資料から、根拠情報の抽出と高品質な回答を生成できる。それが、SATを選んだ理由です。」

コンサルティングから設計、開発・構築、運用・保守サポートまでトータルに支援している総合ITサービス企業 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)。特に、社会インフラを支える電力、交通、自治体といった広域な領域において、その設計力と技術力で最適なソリューションを提供している。

その中で広域・社会インフラ事業グループは、社会の安定と持続可能なビジネスの創出を使命とし、お客様の本質的なニーズに応える価値提供を追求している。

今回は、AI技術を用いた業務変革を推進する藤原様、小芦様、渋谷様、堀下様に、ストックマークの「SAT」を活用し、電力会社向けに特化した高精度なRAGシステムを構築した背景と、社会インフラ領域における今後の展望について伺った。


社会インフラの安定と未来を、技術と設計力で支える

AI、セキュリティ、データ分析、クラウドなど、先進の テクノロジーを組み合わせ、お客様のデジタルトランスフォーメーション(DX)や社会課題の解決に貢献するCTC。300社を超えるマルチベンダーとのパートナーシップと、6,000社以上の強固な顧客基盤、そして従業員の7割以上を占めるエンジニアの高い技術力が、同社の競争力の源泉となっている。

なかでも広域・社会インフラ事業グループは「日本を、社会を、地域を、人々の生活を、つくる・かえる・挑戦する」をビジョンに掲げ、私たちの生活に不可欠な社会インフラ領域を支えている。

広域・社会インフラ事業グループの役割とミッションについてお聞かせください。


藤原様

藤原様:私たちの部署は、首都圏や、北海道・東北・北陸エリアの社会インフラを担うお客様のシステムインテグレーションを推進しています。電力、交通、独立行政法人、自治体など、多様な事業領域のお客様に対し、提案から要件定義、設計、構築、運用・保守まで一連の工程をリードしています。多様な業界のニーズに応えながら、持続可能なビジネスを創出し、それを支えるエンジニア体制を拡充していくことが我々のミッションです。

続けて、同事業グループが大切にしている姿勢について次のように語る。

藤原様:お客様のニーズを深く理解したうえで、個々に最適な価値を追求しています。環境や技術が目まぐるしく変化する中で、お客様は単なるツールの導入ではなく、そのツールによって『何を実現したいか』という本質的な目的に重点を置いています。
品質や効率、レジリエンス向上といったお客様の課題に対しては、AIを活用した解決策が有効です。しかし私たちは、すべてをAIに頼るのではなく、我々の強みである設計力を活かして、お客様の業務に最適化された方法を提案しています。こうした取り組みを通じて、私たちは変化に挑戦し、成長し続けるエンジニア集団でありたいと考えています。


数万ページの書類に、煩雑な申請作業。これまで解決困難だった電力業界の課題

高い専門性と社会的責任を求められる電力業界。その中核をなす原子力分野において、CTCはストックマークと共に業務変革に挑んでいる。その第一歩として取り組んでいるのが、原子炉の長期安定稼働に欠かせない「申請業務」だ。

電力会社が収益性の確保と電力の安定供給を両立するうえで、原子炉の長期的な安定稼働は不可欠であり、その実現には、国の基準を満たす施設・設備について検査や改修を行うための申請・承認プロセスを適正に進める必要がある。

こうした申請業務の現場では、膨大な書類の作成に加え、エビデンスの確認や法令レビュー、複雑な手続きが日々発生している。そのため、効率化と品質確保の両立が長年の課題となっていた。

―電力業界、特に原子力分野の申請業務における具体的な課題は何だったのでしょうか。


渋谷様

渋谷様申請書の作成と内容確認の業務は、品質担保が絶対条件であり、いかに迅速に、手戻りなく進めるかが求められます。しかし、そのハードルは非常に高く、申請書の“物量”が膨大なんです。数万ページに及ぶ内容をまとめる必要があり、確認作業も基本的には目視で行われるため、担当者の労力は計り知れません。

膨大な物量に加え、業務の進め方にも根深い課題があったと渋谷様は指摘する。

渋谷様:一つは、遵守すべき記述ルールが非常に多く、中には明文化されていない慣習のようなものも存在するため、どうしても熟練者の知見に頼るしかなく、業務が属人化してしまうこと。もう一つは、チェック作業の非効率さです。チェックを依頼する際には、申請書を紙に印刷し、根拠となるエビデンス資料も準備して、関連箇所に手書きで印をつけるというアナログな作業が必要で、これが大きな負担になっていました。

この課題に対し、マクロをはじめとした簡易的な自動化ツールの導入を検討したものの、圧倒的な物量を前に頓挫。本格的なAIの活用へと舵を切ることになった。


専門用語や図表の壁を突破。SATが拓く高精度RAGの世界

そこで、生成AIとRAGの組み合わせが有効だと考えたCTC。しかし、原子力という専門領域特有の課題があった。

―従来のRAGでは、どのような点が課題だったのでしょうか。

渋谷様RAGの必要性自体は当初から認識していましたが、従来のものでは情報抽出の精度に課題がありました。というのも、原子力分野で使われる専門用語は非常に多く、従来のRAGでは同義語や略語を正確に理解しきれなかったのです。

そうした中で出会ったのが、ストックマークのデータ構造化プラットフォーム「SAT」であった。導入の決め手について、渋谷様は次のように語る。

渋谷様従来のRAGと比較検証を行った結果、SATの性能の高さが際立っていました。特に、図表を含む複雑な文書の中からでも、高精度に情報を抽出・生成できることが確認できたのです。これにより、RAGシステム全体の性能を大きく向上させられると確信しました。
もう一つの大きな決め手は、セキュリティ要件です。原子力分野のお客様は特にセキュリティ要件が厳しいのですが、SATはオンプレミス環境で他のLLMと組み合わせて動作可能であり、この条件をクリアできたことも非常に重要でした。


原子力から他業界へ広がる、社会インフラDXの可能性

SATの導入は、単なるツールによる効率化にとどまらず、申請業務のプロセスそのものを大きく変えようとしている。CTCが目指すのは「人とAIによる新たなダブルチェック体制」の構築である。

―SATの導入により、申請書の作成・確認プロセスはどのように変化するのでしょうか。

渋谷様従来のチェック体制は、人間二人によるダブルチェックが基本でした。これからは、その“一人目”をAIに任せることを考えています。AIが一次チェックを行い、人間が最終チェックをする。このような人とAIの協働によって、より効率的かつ正確な業務遂行が可能となるでしょう。
また、熟練者の知見に依存せず、作成者自身がシステムを使ってセルフレビューできるようになることで、作成段階から品質を高め、属人化も解消できます。さらに、紙への印刷や手書きでの確認作業も不要になり、業務負荷の軽減とペーパーレス化も実現できると期待しています。

この業務変革の実現には、CTCの設計力とストックマークの技術力の掛け合わせが不可欠であった。この二社だからこそ実現できる価値について、渋谷様は次のように語る。

渋谷様 我々はSIerとして、お客様の業務課題に深く入り込み、システムに必要なソリューションの組み合わせや新しい業務の設計を行うことに強みがあります。一方、ストックマークさんはAIという先進技術で、その実現を技術的に支える力を持っている。この両社の強みを掛け合わせることで、お客様に最適な価値を提供できる点が、本パートナーシップの大きな意義だと考えています。
また、SATは単なるツールではなく、生成AIやRAGを構築・高度化していくためのプラットフォームだと捉えています。業務システムと組み合わせることで、現場の実情に即した形で効果を発揮できる点も大きな魅力です。今後もこの基盤を活かしながら、お客様の業務課題を解決できる領域が、さらに広がっていくことを期待しています。

CTCは、このパートナーシップで得られる成果を原子力分野にとどまらず、社会インフラ全体へと広げていくことを見据えている。

藤原様申請書や技術文書の作成・確認業務は、鉄道、通信といった他のインフラ業界にも同様に存在し、同じような課題を抱えています。たとえば、総務省から認可を受けて利用する設備があり、継続利用には定期的に申請が必要となります。これもルールが複雑で属人的になりがちであり、本件と同様のニーズがあると捉えています。
今回構築する仕組みは、業界特有のルールや文書形式に合わせてカスタマイズすることで、他業界への横展開が十分に可能だと考えています。電力業界で得られた成果をベースに、より広い分野で品質向上や業務効率化といった新たな価値を提供していきたいですね。

CTCとストックマークの共創は、社会インフラが抱える複雑な課題に、AIという新たな光を当てる。人とAIが協調し、熟練者の知見がデジタルで継承されていく未来は、着実に近づきつつある。

※記事内容および、ご所属等は取材当時のものです。


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