伊藤忠商事株式会社
【プロジェクトテーマ】
熟練担当者の相場観を形式知化し、市況予測の精度向上を図るハイブリッド型市場分析AIの開発
- 伊藤忠商事株式会社
- 非鉄・リサイクル部長代行 兼 軽金属原料課 課長 小島 様
- 同課 坂手 様
- メタルヘッジソリューションズ合同会社 代表社員 櫻井 様
- 金属情報化推進室 室長 山崎 様
01. 本プロジェクトのテーマ:
データと専門知の「かけ合わせ」で挑む、アルミ市況予測の高度化
伊藤忠商事株式会社 金属カンパニーが取り組むのは、AIによるアルミ市況分析プラットフォームの構築と、それによる市況予測の高度化です。
同社において長年蓄積されてきたアルミ商材の取引実績データと、市場を読み解いてきた専門的な知見を掛け合わせ、需給や価格変動に影響を与える多様な要因の関係性をAIで整理・構造化します。
本プロジェクトでは、単に価格を予測することが目的ではなく、予測に至った「判断の根拠」を可視化することに挑みます。
市況を読み解く力そのものを組織の資産へと変え、顧客との対話の質を高める新たな協働基盤の構築を目指しています。
02. いまの課題、その背景:
アルミ市況の複雑性と、個人の「暗黙知」に依存する予測の限界
日本のアルミ地金は輸入に依存しており、その市況変動は国内の調達や生産計画に直結します。
しかし、アルミの価格は為替や金利、エネルギー価格、中国の生産動向、地政学リスクなど、無数の要因が複雑に絡み合って変動するため、先行きを見通すことは容易ではありません。
これまで、こうした膨大な情報を一つのストーリーとして整理し、市況変動の背景や今後の見通しを説明することは、非常に高度な専門性を要するものでした。
また、その分析や見立ては経験豊富な担当者の知見や勘に大きく依存しており、担当者によって着眼点や判断軸が異なることも少なくありません。
そのため、予測に至るまでの思考プロセスや根拠を組織として共有し、再現することは容易ではありませんでした。
複雑性が増す市場環境の中で、個人の経験に頼ってきたノウハウをいかに組織の資産として蓄積し、次なる予測へと活かしていくか。
これが、同社が現在向き合っている課題です。
03. 解決策と目指す姿:
「価格の上下」を当てるのではなく、「なぜそうなるのか?」を説明できる市況予測へ
今回のプロジェクトでは、この難局を打破するために、以下のアプローチで変革を加速させます。
定量・定性情報の一元化と連携
市況予測に欠かせない為替やLME上での価格などの数値データに加え、市場ニュースや政策動向、需給に関する情報など、多角的なデータを一箇所に集約。
これらをシームレスに連携させ、予測の変数となるデータを網羅し、目的に応じて柔軟に活用できる基盤を構築します。
熟練者の「判断手順」のデジタル化
これまでベテラン社員の頭の中にあった「どのような市場環境において、どの要因が揃ったら価格がどう動くか」という独自の相場観(暗黙知)を体系的に整理。
ストックマークのAI技術を用いることで、熟練者が実践してきた高度な思考プロセスそのものを「説明可能な判断ロジック」としてシステム上に再現し、その予測の根拠を検証・説明できる環境を構築します。
市場変化パターンの生成と予測シグナルの自動検知
集約した定量・定性データと、再現した判断ロジックをAIに学習させることで、人間では網羅しきれない複数の市場シナリオを瞬時に多量にパターン化。
変化し続ける市場環境に応じて「今どのパターンに合致しているのか」をAIが自律的に解析し、価格方向の予測シグナルを自動で出力する、実効性の高い予測システムを確立します。
求められているのは「価格が上がるか下がるか」といった単なる予測結果以上に、「なぜ価格が動いているのか」「今後どのようなシナリオが考えられるのか」「自社はどう判断するべきなのか」といった意思決定につながる情報です。
AIの予測根拠をブラックボックスのままにするのではなく、どの情報が判断に影響し、なぜその見立てに至ったのかまで確認できる分析環境の構築を目指します。
04. 担当者様のコメント:
お客様が取るべき次の一手を、共に考えられる仕組みづくりを
「アルミニウム市況の予測は、本当に要素が多くて難しい世界です。だからこそ、ベテランが持っている今の知識が、5年後も、10年後も残り続ける状態をつくりたいと思っています。
また、市況予測は一度作って終わりではありません。市場は日々変化していきますし、それに合わせて予測も変わっていくものです。
AIで継続的に、予測がアップデートされ続ける状態を目指したいと考えています。
私たちが目指しているのは、単に価格を当てることではありません。「なぜ上がるのか」「なぜ下がるのか」といった背景を、データと根拠を持って判断できるようになることです。そのうえで、お客様が取るべき次の一手を一緒に考えられるようになりたいと思っています。
AIでできることはAIに任せる。その分、人はお客様と向き合う時間を増やしていく。そうした役割分担がこれからますます重要になってくるのではないでしょうか。
まずはアルミから取り組みますが、将来的には他の資源領域への展開も考えています。今回の取り組みを通じて、データと根拠に支えられた提案を生み出し、お客様の意思決定に役立てられる状態を目指していきたいと思っています。」

※記事内容および、ご所属等は取材当時のものです。