NGK株式会社
【プロジェクトテーマ】
熟練技術者の暗黙知継承とナレッジ活用のための製造業向けAIプラットフォームの構築
- NGK株式会社
- デジタル変革推進部 齊藤 隆雄 様
- デジタル変革推進部 デジタル技術推進G 及川 圭太 様
- デジタル変革推進部 デジタル技術推進G 児玉 亜有実 様
- 製造技術本部 モノづくりシステム統括部 高田 正治 様
- 製造技術本部 モノづくりシステム統括部 淺野 宣方 様
- 製造技術本部 モノづくりシステム統括部 中井 進助 様
01. 本プロジェクトのテーマ:
研究開発における暗黙知継承とナレッジ活用のためのAIプラットフォームの構築
NGK株式会社(以下、NGK)が挑むのは、次世代のモノづくりを支える「研究開発における暗黙知継承とナレッジ活用のためのAIプラットフォームの構築」です。今回の実証フェーズでは、その第一歩として、製品開発の中核を担うCAE(シミュレーション)を題材としたデータ基盤の構築に取り組みます。
これまで研究開発部門や製品設計部門、生産技術部門が蓄積してきた膨大な製品開発データは、「人が確認するための資料」として個別最適化された形式で蓄積され、統合的な活用が難しい状態にありました。そこで、本プロジェクトでは、デジタル活用が進む『CAE業務』に焦点を当て、AIをフル活用できる構造へと変革します。単なるデータベースの構築に留まらず、全社展開の起点としてAI運用の方針や共通基準を確立し、製品開発プロセスの劇的な生産性向上と高付加価値化を目指します。
02. いまの課題、その背景:
属人化した技術データ資産。ベテランの退職で迫られる「暗黙知」消失への危機感
これまで同社では、年々高度化・複雑化する製品開発業務に伴い、大量の設計情報やその根拠となるCAEデータを蓄積してきました。これらは人が理解しやすいようにWordやExcel、PowerPointといった異なるフォーマットで記述され、部門や作成者独自の工夫・やり方で蓄積されていました。その結果、同じ製品群でも部門や作成者が異なるケースでは管理するファイルも異なるため、表記が異なる等、定義や表記のバラつきがAI活用の大きな障壁となっています。
その背景には、セラミック製品の製造プロセスならではの「高い技術難度」と「長い開発リードタイム」があります。構想から量産までの開発プロセスが長く複雑なため、各プロセスの開発はそれぞれのスペシャリストが関わり、属人化が生まれやすい構造でした。そして現在、こうした開発を牽引してきたベテラン層が退職の時期を迎えており、彼らの頭の中にある貴重なノウハウや経験を残さなくてはならないという、技術継承の課題にも直面しています。

03. 解決策と目指す姿:
開発現場を巻き込むルール化と、全社へ波及する「AI Ready」モデル
確実かつ迅速に効果を確認するため、本プロジェクトでは「CAE業務」の中でも最も価値の高い領域にフォーカスし、以下の3つのアプローチを推進します。
「報告書作成」に焦点をあてたスコープ選定
AIがデータを理解できているかの確認が容易な「報告書作成」をターゲットとし、まずはデジタルデータとして集約されているCAEの「結果データ」に狙いを定めます。報告作成に必要なデータとして、コアとなる約100ファイルを厳選。確実にAI-Readyに持って行くためのロードマップを確定。
開発現場の知見に基づくメタデータの補完
数値が並ぶだけの「結果データ」に対し、項目名の再定義や、データの背景意図を示す「注釈(メタデータ)」の付与ルールを策定。これにより、AIが正しく文脈を解釈できる高品質なデータへと洗練させます。
製造業における汎用データ基盤の確立
AIによるデータ解析へ投入可能なデータ基盤を構築。将来的に他部署や他プロジェクトへ、また製品開発だけでなく量産プロセスへも広く展開、AIreadyなデータを全社的に蓄える仕組みを作り、当社のデジタルアセットとしての活用を目指します。
04. 担当者様のコメント:
日本の“泥臭いすり合わせ”の強みを、AIを活用して次世代へと繋ぐ
「情報の属人化・サイロ化は、どこの職場でも直面する共通の課題です。過去に『電子実験ノート』で入力の統一を試みたこともありましたが、現場へのビジョン共有不足や、人に負担をかける仕組みだったため、定着しなかった苦い経験があります。現場に納得感がなければ、本当に重要な知見は『人の頭の中』や『個別Excelファイル』などの、個人のロッカーにしまわれてしまうのです。
当社セラミック製品のモノづくりは、数値だけでは測れない、ベテランたちの『暗黙知』や『過去に製品化に至らなかった失敗データ』に本質的な価値があります。しかし、それらは紙にも残されておらず、退職とともに失われかねない。この危機感が、今回のプラットフォーム構築への強い原動力となっています。
日本企業が伝統的に得意としてきた『泥臭いすり合わせ』で蓄積した知見をデジタルデータ化し、AI時代に活用できる新たなものづくりのプラットフォームとして進化させたいと考えています。
AI時代を迎え、若手に必要なスキルも『古典的なプログラミング』から『AIへ正しく仕様を指示する能力』へとシフトしつつあります。しかし現場では、まだAIを『従来の自動化の延長』と捉える向きが強いのも事実です。今回のプロジェクトを通じて、『AIが人間の思考や判断を的確にアシストし、実務を劇的に変革する』という成功事例を提示したい。現場とマネジメント層が一体となり、組織全体の働き方とマインドセットを『AI Ready』へと塗り替える、そんな未来を全社一丸で作っていきたいと考えています。」

※記事内容および、ご所属等は取材当時のものです。