東京電力リニューアブルパワー株式会社
【プロジェクトテーマ】
安全かつ高度な運用を実現するための「水力発電所ダム管理ノウハウの形式知化・活用」
- 東京電力リニューアブルパワー株式会社
- 技術・業務革新推進室 カイゼン・DX推進グループ 森 文章 様
- 水力部 水力企画グループ 兼 カイゼン・DX推進グループ 石垣 顕 様
- 鬼怒川事業所 総括グループ 兼 土木保守グループ 大島 巧 様
- 鬼怒川事業所 土木保守グループ 兼 水力部 水力訓練グループ 高山 空 様
01. 本プロジェクトのテーマ:
ダム運用の「経験とノウハウ」をデジタル資産へ。技術継承の新たな形
東京電力リニューアブルパワーが取り組むのは、水力発電事業におけるベテラン技術者の「暗黙知」を形式知化し、次世代へ確実に継承するためのプラットフォーム構築です。ダムの運用管理は、一歩間違えれば公衆災害に直結する極めて公共性の高い業務であり、そこには長年の経験に裏打ちされた「ノウハウ」が必要とされてきました。
今回のプロジェクトでは、ベテランの判断基準をAIに学習させ、若手社員が一人でも安全かつ自信を持って操作できる環境の実現を目指しています。また、中岩ダムという、運用水位の幅が狭く判断の緊急性が高い地点を対象に据え、生成AIを活用した技術承継のモデルケースを作り上げることが大きな狙いです。
02. いまの課題、その背景:
「中堅がいない」二極化された年齢構成と、ゲリラ豪雨への緊迫感
ダム管理の現場が直面しているのは、深刻な世代間ギャップです。事業所内には30代・40代の中堅層がほとんどおらず、50代のベテランと20代の若手という二極化が進んでいます。これまでダムの運用、特に放流判断の見極めが難しいゲリラ豪雨や台風時には、ベテランが過去の経験から「川の流れの変化」や「上流ダムの放流傾向」を読み解き、適切な放流判断を下してきました。しかし、こうしたノウハウはマニュアル化が難しく、個人の経験に依存する「暗黙知」として蓄積されています。
既存の資料についても、PDFやエクセル、画像データなど形式がバラバラで、必要な情報に即座に辿り着くことが難しく、仮にシステム化できても期待通りの回答が得られないといった操作ストレスも課題と考えられていました。
03. 解決策と目指す姿:
ベテランの判断を、未来のインフラ運用基盤へ
本プロジェクトでは、属人的な判断を「誰でも再現可能なプロセス」へと変換するため、以下の取り組みに着手します。
散在する社内知見の統合とRAGシステムの高度化
現在バラバラの形式で保管されているマニュアルや過去のトラブル対応記録、長年蓄積されてきた会議議事録などのドキュメントを統合することで、「当時のデータではどう評価したか」「どのような因果関係があったか」を即座に引き出せる仕組みを構築します。
「判断のロジック」のエージェント化と学習機能の実装
単なる情報の検索に留まらず、ベテランが行っている放流のタイミングと量の判断をAIエージェントに学習させます。具体的には、計測データの相関関係や地盤の状況など数字で計算できる事項だけでなく、複数の情報が絡み合う中での「ベテランならこう解釈する」という思考回路を言語化します。それを対話型エージェントとして実装することで、実務者が操作支援を受けながら安全に判断を下せる状態を目指します。
04. 担当者様のコメント:
「夜、安心して眠れるように」―― AIへの不安を、期待へと変える
「ダムに常駐し、目で見て音で聞いて判断・操作していたベテランにとって、AIへの抵抗感は確かにあるかもしれません。しかし、既に導入している自動制御も最初は抵抗があったものの、結果としてベテランも『夜、安心して眠れるようになった』という喜びの声も上がったという前例もあります。
若手や新入社員からベテランまで、誰もがより確信を持ち、腹落ちした状態で安全に操作できる環境を作ってあげたい。ベテランの立場からも、夜間に何度も呼び出される負担が軽減されることは大きな価値になります。これまで大切にしてきた現場の知見を否定するのではなく、最新の生成AI技術を取り入れることで、公衆災害の防止と安定的な運営の両立を確かなものにしていきたいと考えています」

※記事内容および、ご所属等は取材当時のものです。