太陽誘電株式会社
【プロジェクトテーマ】
非構造化技術資産のナレッジグラフ化による「探索的R&D」に向けた生成AI活用型テーマ創出プラットフォームの実証
- 太陽誘電株式会社
- 開発研究所 開発企画部 課長 利部 潤 様
- 開発研究所 開発企画部 茂木 昌詩 様
01. 本プロジェクトのテーマ:
非構造化技術資産のナレッジグラフ化による「探索的R&D」実現に向けた、生成AI活用型テーマ創出プラットフォームの実証
太陽誘電が本プロジェクトで取り組むのは、過去18年間にわたり電子データとして蓄積されてきた膨大な技術報告書や実験データを横断的に活用し、研究テーマ創出支援をはじめとする多様な用途に対応するプラットフォームの構築です。製造業におけるR&Dは企業競争力の源泉である一方で、新しいアイデアの創出や先行事例の調査が、研究者個人の経験や人脈に依存しやすいという「属人化」の課題を抱えています。
本プロジェクトでは、ファイルサーバー内に蓄積された多様な非構造化データから技術的な意味や関連性について、AIを活用して抽出・整理・可視化することで、研究テーマの創出に限らず、研究者自身も気づいていなかった類似技術や新たな応用可能性の発見を支援する「次世代の探索型R&D」の実現を目指しています。
02. 課題とその背景:
ファイルサーバーに散在する過去の知見と、属人化による「車輪の再発明」の構造的ボトルネック
これまで同社では、新規テーマ立案時に過去の社内技術報告書や実験データを参照していました。しかし、それらはWord、Excel、PDF、PowerPointなど異なるフォーマットで作成され、人が読み理解することを前提とした「非構造化データ」として散在していました。従来のキーワード検索では、「特定の特性を持つ素材」といった文脈や意味に基づく検索が難しく、大量の検索結果の中から手動でファイルを開き、内容を確認する必要がありました。
加えて、これらの情報は当事者には理解可能である一方で、第三者やシステムが横断的に扱うことを前提に整理されておらず、結果として必要な知見にたどり着くまでに1テーマあたり数十時間もの工数が発生していました。その背景には、長年の研究開発の中でデータ形式やテンプレートが統一されてこなかったことに加え、ファイル名だけでは内容を判別できないデータや、顕微鏡画像のような情報が多数含まれていることなど、データ品質上の課題が存在しています。
その結果、退職者の知見や部署横断の暗黙知へのアクセスが困難となり、過去に類似の失敗事例があるにもかかわらず同様の実験を繰り返してしまう「車輪の再発明」や、本来であれば組み合わせることで画期的な発見につながる技術が見過ごされるといった、製造業特有の構造的な機会損失が常態化していました。
03. 解決策と目指す姿:
AIが文脈を理解し、研究者の思考を拡張する。データ資産の構造化と探索型RAG基盤の構築
現場の研究者が日々の業務の中で確実に効果を実感できるよう、以下の3つのポイントに沿って仕組みづくりを進めます。
画像データのテキスト化から関連性の可視化までを繋ぐ「高度なRAG基盤」
過去18年分に蓄積された非構造化文書約3,000ファイルを対象に、OCR技術を用いて文書をテキスト化します。さらにLLMを活用し、文書から重要キーワード、実験条件、結果などの「キーファクト」を自動抽出。表記ゆれを統制したうえでメタデータとして付与します。加えて、文書間の関連性を「ナレッジグラフ」として構造化することで、AIが横断的に分析・紐づけできる情報のハブとなるRAG環境を構築します。
「広く俯瞰し、深く調査する」ための探索型UI/UXの実装
単なる一問一答型のチャットボットではなく、研究開発の思考プロセスに特化したインターフェースを開発します。「広く探索(関連技術の俯瞰)」から「絞り込み(特定条件でのフィルタリング)」、さらに「深く調査(原文参照)」へとシームレスに移行できる探索型UIを実装。AIが提示する回答の出典(ソース)を即座に確認できるようにすることで、研究者が「思考のヒント」を直感的に得られる高い信頼性を担保します。
機能モジュールの共通化による全社展開と、製造業における汎用モデルの確立
システムの中核となる「Agent Skills(検索・要約・推論などの機能モジュール)」を、特定部署に依存しない共通コンポーネントとして設計します。これにより、入力データを「営業日報」や「製造日報」に置き換えるだけで、品質保証における過去不具合の検索や、製造現場のトラブルシュートなど、他部署への横展開を可能にします。
04. 担当者様のコメント:
AIを「思考支援のパートナー」へ。過去の知見を若手の力に変え、組織全体のR&Dを加速
「私たちが今回のプロジェクトに最も期待しているのは、AIに答えを出させることではなく、研究者の発想を広げ、新たな着想を促す“思考支援のパートナー”として活用できる環境を整備することです。これまでの研究開発では、先輩たちが積み重ねてきた知見や、重要な『失敗データ』がファイルサーバーの奥底に埋もれ、活用しきれないというもどかしさがありました。技術文献の調査や先行事例の確認に多くの時間を費やす一方で、本来注力すべき『実験の考察』や『クリエイティブな議論』に十分な時間を割きにくい構造になっていたのです。
今回のプラットフォームが稼働すれば、過去18年分のナレッジがAIによって一本の線でつながり、若手研究者であっても過去の知見へ網羅的にアクセスできるようになります。データ検索や確認といった定型作業の負担を大幅に削減し、その結果生まれた余白を、より高付加価値な考察や実験に充てることが可能になります。過去の知見を確実に参照することで、『車輪の再発明』による原材料や設備のロスを未然に防ぐだけでなく、異なる技術領域が結びつく『意外な組み合わせ』からイノベーションが生まれる、そんな研究者一人ひとりの好奇心が刺激され、組織全体のR&Dスピードが加速する未来を、この実証を通じて形にしていきたいと考えています。」

※記事内容および、ご所属等は取材当時のものです。